きみとぼく 第5話


皇帝は偉そうだ。
いや、皇帝なのだから偉いという設定なのだろう。
こうして考えると、チビゼロも眼帯も皇帝も全員が偉そうだ。
ロイドの趣味だろうか?
入室したサヨコは予想通りテーブルの上の小さな住人に驚き声を無くしていた。
いつの間にか体を起こして保冷材を背に座り、幼い子供のようにすやすやと眠る眼帯を抱きしめていた皇帝は特に気にせず初対面のサヨコに命令する。

「サヨコ、---に紅茶を」
「・・・畏まりました」

サヨコは恭しく頭を下げ、震える声でそう答えた。
こんな人形に命令されるのだから驚くのも無理はない。
しかもこんなに小さいのにちゃんと動き、話すのだ。
もしかしたらとんでもない技術なのかもしれない。
それを早々に壊したのだから、あとあとロイドに怒られる可能性はある・・・が、モニターで監視しているはずのコレが壊れているのに、いまだこの部屋に飛び込んできていない以上、この程度は許容範囲内なのかもしれない。

「そうだ、油の場所を聞かないと」

てきぱきと動くサヨコは今キッチンにいる。
聞くなら今だろう。

「この部屋を管理しているのがサヨコなら、油はあそこじゃないのか?」

つい口に出してしまった言葉が聞こえたのだろう。
皇帝が小さな指をキッチンに向けて何かを指し示していた。
ああ、そうか。センサーか何かで何処に何があるのか解るのか、あるいはこの部屋のデータが全て入っているのか。機械なら、知っていてもおかしくはないか。
お茶とお昼の用意をしているサヨコの邪魔にならないよう調べてみると確かにあった。そうだ、いつもここに入っていた。おかしいな、よく使っていたものなのに、どうして忘れていたのだろう。もしかして健忘症か?と念のため他の調味料や非常食、携帯食がある場所を脳裏に浮かべてみたが、特に問題なく思いだせた。
疲れていたからだろうと、深く考えるのは止めた。
いつも発言中に前後の内容が変わったり、大事な資料の内容を忘れたりと、健忘症じゃないのかと噂荒れる扇のようになるわけにはいかない。
そんなことを考えていると、サヨコが昼食をゼロの前に置いた。
出されたのはサンドイッチだった。
いつもはもっとしっかりとお腹にたまるもの、主に肉料理をメインに用意してくれるのだが、サンドイッチだけとは珍しい。そう言えば、ゼロは体調を崩している事になっているから、手軽に食べられる物を用意したのかもしれない。
一緒に、皇帝が要望した暖かな紅茶も用意されている。
サヨコは小さなおもちゃのテーブルも用意していた。小さなおもちゃの皿の上にはプリン。ちゃんと形を整えられた小さなプリンに、手先が器用だなと感心してしまう。小さなサンドイッチも用意されており、小さなカップには紅茶が注がれている。
見た目は小さいが、どれもこれも完ぺきな内容で、さすがサヨコだと改めてその能力の高さに驚かされた。皇帝は満足そうに「さすがサヨコだ」と褒め称え、チビゼロは同意するように頷いた。一番喜んだのは眼帯で、幼い子供のように嬉しそうに笑っていた。

「プリンだ」

眼帯の瞳はキラキラと輝いて見え、そんな姿にまた吐き気がしてきたが、さっきよりはましだった。サヨコがいるのに吐いたら、仮病ではなく本当に病気だと思われ、下手をすれば医者を呼ばれてしまう。目をキラキラさせておいしそうにプリンを頬張る姿は可愛いのだが、精神衛生上眼帯は視界に入れない方がいい。
チビゼロは仮面が取れないから食べられないと辞したが、それならばとサヨコは針金ハンガーを器用に折り曲げ、タオルを巻いて目隠しを作った。
チビゼロは、いそいそと紅茶とプリンを手にその中に入っていく。
その背中が嬉しそうに見えたのは気のせいだろうか?と思ったが、そう言えばずっとチビゼロだけ水分を取って無かったなと気がついた。そう言えば水分だけではなく、食べ物も食べれるんだなと今更気づく。
皇帝もプリンと紅茶を口にしていた。
表情は相変わらず偉そうだが、どこか幸せそうに見えるのは気のせいか?
ああ、プリンが好きなのだから当然の反応か。
・・・当然?・・・そうだ、ロイドはプリンが好きだからと納得した。

「サヨコ、世界情勢を解る範囲で教えてくれないだろうか」
「畏まりました」

プリンを食べ終えた皇帝は、プリンのおかわりを用意しているサヨコに言った。
用意している分は眼帯のもの。
今3個目のプリンを食べているが、まだまだ食べそうな勢いだ。

「なぜ彼女に聞く?」

どうして自分に聞かない?

「お前は、自分の主観を元に説明する癖がある。客観的な情報が欲しいのだから、お前では役不足だ」

少しは可愛いなと思ったが、やっぱり皇帝は偉そうで見ていてイライラする。自分の言う事はきっと聞かないし、忠告だって無視する。護りたくても護らせてくれないし、きっと一人で何でもできるし、実際に何でも好き勝手やって取り返しのつかない事をする。
そんな暴君がこの皇帝なのだ。
きっと政治の事など聞いても解らない、質問に答えられないと思っている。
 ゼロは全部理解しているし、主観的な考え方などしないのに。
試しもしないで駄目だと決めつけるなんてひどいと、皇帝の質問にサヨコが返しているのを聞きながら、サンドイッチを頬張った。

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